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株式会社豊畜産 豊幸男
鹿児島県 大島郡(天城町) 育成牛:14頭、親牛:139頭、子牛:103頭 取材日:2025年8月20日
水と草にかける情熱
記者「豊さんの牧場で大切にしている“こだわり”を教えていただけますか?」
豊さん「一番はやっぱり水ですね。昔、川の水をそのまま使っていた時期があったんですが、夏場に子牛の下痢が多発してしまったんです。最初は原因が分からず、薬を打っても治らない。試行錯誤した結果、水が原因だと気づきました。それで200メートルも水道を引いてきて、常にきれいな水を飲ませられるようにしました。今は朝晩の水交換も欠かさず、冷たい水を用意するなど細かい工夫で牛の健康を守っています。」 記者「水を水道に変えたことで、実際に改善は見られましたか?」 豊さん「はい、大きな違いがありました。川の水は見た目はきれいでも、菌や不純物が含まれていることがあるんですよね。特に夏は水をよく飲むので、そこで影響が出ていたんだと思います。水道水に切り替えてからは下痢の発生がぐっと減りました。子牛はちょっとした体調不良が成長に直結するので、水回りの管理は本当に重要です。水を替えるだけでこんなに違うのかと、改めて実感しました。」 記者「牛のストレスケアの工夫をされているとお聞きしました。」 豊さん「水の温度管理もそうですが、牛の過ごしやすさを考えることが大事だと思っています。夕方に冷たい水を飲ませるため、朝のうちに汲んで準備しています。子牛は環境のちょっとした変化に敏感なので、ストレスをできるだけ減らす工夫が欠かせません。人間と同じで、毎日の小さな積み重ねが健康につながると感じています。」 記者「水以外では、自給飼料にも力を入れていると伺いました。」 豊さん「はい。今は親牛の粗飼料の90%以上が自給飼料です。特に夏は青刈りした草を与えるようにしています。乾燥牧草より栄養価が高く、ビタミンも豊富で、牛が喜んで食べるんです。それに発情の兆しも分かりやすくなって、繁殖の面でも効果を感じています。手間はかかりますが、自分の目で見て育てた草を食べさせると、牛の反応が返ってきて面白いんですよね。努力が形になって見えるから、やりがいを感じます。」 牛の口から畑の土まで循環を刻む
記者「豊さんの牛の状態に点数をつけるとしたら、何点くらいだと思われますか?」
豊さん「うーん、正直に言えば60点くらいでしょうかね。本当は気持ちでは100点をあげたいんですが、牛舎の設備がまだ追いついていない部分もあって、どうしても減点せざるを得ません。急に牛を増やした時期があって、その勢いに環境づくりが追いつかず、牛に負担をかけてしまったと感じています。寒さや暑さの中でも元気に過ごしてくれているのが救いですが、体型や骨格の理想にはまだ届いていないんです。」 記者「なるほど。60点の理由となっている“マイナス40点”の部分は、具体的にはどのあたりでしょうか?」 豊さん「体の大きさや繁殖に関わる部分が大きいですね。代々の血統を大事にしてきたので小ぶりな牛が多いのですが、今の相場だとやはり大きい牛の方が評価されやすい。その差が見た目にも出てしまいます。そこにさらに大きな牛を掛け合わせると、母体への負担も増える。牛に頑張ってもらっていると分かりながらも、そこが改善点だと感じています。」 記者「ボディコンディションについては、どのように見ていますか?」 豊さん「これもやっぱり60点から70点といったところでしょうか。青草を与えているので元気はあるんですが、A5クラスに仕上がるにはまだ足りない。近いところまでは来ているんですけどね。見た目の張りや脂の乗り、全体のバランスがもう少し整えば、理想に近づけると思っています。やっぱり餌の設計や種付けの工夫で改善していかないといけないですね。」 記者「そのプラス40点を埋めるために、今どんな対策をされているんですか?」 豊さん「種付けの段階で、あえて大きい牛を選んで掛け合わせるようにしています。それから、飼料設計ではビタミンを月に一度補給し、毎日ミネラルを切らさないようにしています。ニューハイコロイカルを毎日与えているのもその一つです。農協で扱っていることもあり、この地域では多くの農家が使っているんですが、やっぱり牛の体調維持には欠かせません。細かい積み重ねで、少しずつ100点に近づけていきたいと思っています。」 記者「豊さんのおすすめのアイテムや道具はありますか?」 豊さん「自分が一番薦めたいのは“ロールカッター”ですね。もう12〜13年使っていますが、これがあるのとないのとでは全然違います。長い草のまま与えると、牛同士で引っ張り合ったり、強い牛だけが多く食べたりしてしまうんです。ロールカッターで細かく刻んで与えると、みんなが均等に食べられて、個体管理がしやすくなります。導入した当初から“これはいい”と実感していて、今ではなくてはならない道具になっています。」 記者「なるほど。ロールカッターの導入でかなり改善するものがあったのですね。」 豊さん「はい、刻んであるので残飼も少なくなりますし、牛が横取りしにくいので無駄が減ります。それに残った草も細かいから堆肥に混ざりやすく、枯れるのも早い。畑に戻す時にすごく扱いやすいんです。長い草だとマニアスプレッダーに絡まってしまうこともあるんですが、細かくなっているとその心配もありません。牛にとっても、畑にとってもメリットが大きいですね。」 記者「牛が食べた後のことまで考えると、効果はさらに大きいんですね。」 豊さん「そうなんです。うちはジャガイモも作っているので、堆肥や残草を畑に還元することはとても大事です。ロールカッターで細かくしておけば有機物としてすぐ馴染むし、土作りにもつながります。牧場の仕事は“牛に食べさせて終わり”じゃなくて、畑に戻す循環まで含めて考えないといけない。そういう意味でもロールカッターは自分にとって頼もしい相棒ですね。」 リスクに挑むか、衰退か
記者「豊さんにとって、師匠や目標にしている方はいらっしゃいますか?」
豊さん「いますね。“城さん”という授精師の先輩です。何も分からなかった頃に、一から授精の技術や牛の血統の見方、さらには飼料の工夫まで徹底的に教えてくれました。あの時期がなかったら、今の自分はありません。150頭まで牧場を広げられたのも、すべて城さんの存在があったからだと思っています。」 記者「城さんはどんな方なんでしょう?」 豊さん「仕事の時は本当に厳しいです。少しの油断も許さない、そんな姿勢でした。でも一方で、仕事を離れると冗談を言って笑わせてくれる優しい一面もあります。厳しさと温かさの両方があったから、自分もついていくことができたんでしょうね。あの人の人柄と指導に救われました。」 記者「その城さんとの出会いは、どういうきっかけだったんですか?」 豊さん「大学を出て鹿児島で研修をしたんですが、忙しくて授精の勉強はほとんどできませんでした。島に戻った時、親の牛を手伝いながら“これでは伸びない、授精を覚えなきゃ前に進めない”と強く思ったんです。思い切って城さんを訪ねて、『教えてください』と頼みました。すると『明日から来い』と言ってくれて、そこから半年以上、弟子のように毎日通いました。その時学んだことが、今の牧場経営の土台になっています。」 記者「最後に、座右の銘を教えてください。」 豊さん「自分の座右の銘はMeta〈旧Facebook〉の創業者であるマーク・ザッカーバーグの言葉で“リスクを取らないことが最大のリスク”です。挑戦せずに安全ばかりを選んでいたら、牧場は大きくならなかったと思います。たとえば、安福久という種が出たとき、資金も少ない中で思い切って30本買ったんです。周りからは『無謀だ』と笑われましたが、その選択が大きなきっかけになりました。それ以来、良いと思った種は100本でも200本でも買います。もちろん失敗もありますが、その経験が必ず次につながるんです。リスクを取れば成功する保証はないけれど、挑戦しなければ何も変わらない。失敗から学び、挑戦を積み重ねることで、自分も牧場も確実に成長してきました。だからこそ、自分はこれからも“リスクを恐れない”ことを大事にしていきたい。挑戦こそが牧場を前に進める力になると信じています。」 ロールカッター
長年愛用されているロールカッターは、ロール状の草を細かく刻んで給餌できる便利な機械です。草を細断することで、牛同士の餌の奪い合いを防ぎ、どの牛も均等に食べられる環境が整います。食べ残しが減り、余った草も堆肥として扱いやすくなるため、畑への還元もスムーズ。牧場と畑の循環を意識する豊さんにとって、牛の管理から土づくりまで支える頼れる相棒です。
Writer_T.Shimomuro
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概要和牛農家に3プライドを取材しました。 ■取材日時■
11月 2025
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