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源牧場 源美勇司
鹿児島県 大島郡(’伊仙町) 親牛:86頭、子牛:50頭 取材日:2025年8月19日
手綱は己の手の中に
記者「源さんの牧場では、どのようなこだわりを持って飼育されていますか?」
源さん「まず大前提として、自家製の飼料を100%使用しているところが一番のこだわりですね。購入飼料は一切使わず、自分たちで育てた草を与えることで、経費の大幅な削減を図っています。それに加えて、輸入飼料など外的な不安定要素を排除することができます。戦争や円安などで価格が大きく変動するリスクがありますから、自分たちでコントロールできる部分を増やすのが経営の安定にもつながると思っています。」 記者「徳之島では、飼料をすべて自給されている方は少ないのですか?」 源さん「そうですね、小規模で飼っている方々は自給しているケースも多いんですが、うちのように90頭近くの規模で100%自家飼料というのは、ほとんど聞かないです。規模が大きくなるとどうしても乾燥飼料や輸入飼料に頼らざるを得ない状況があるんですが、うちは自給体制にこだわって、ほぼ外部に依存せずやれているのが強みです。」 記者「それ以外にも、飼育で意識している点はありますか?」 源さん「はい。親牛も子牛も自家製飼料で飼育しているのに加えて、『青刈り』と呼ばれる若い草を毎日刈って与えるようにしています。青刈りには繁殖に有用なビタミンやタンパク質が豊富に含まれていて、実際に受精卵の着床率や繁殖成績の向上にもつながっていると実感しています。添加剤などを別途買う必要がなくなるので、その分経費の削減にもなっているんですよ。」 記者「青刈りにはメリットが多いようですが、反対にデメリットはありますか?」 源さん「デメリットとしては、やはり畑の利用効率が下がることですね。ロールベールのように一気に収穫して保存するわけではないので、1枚の畑を10日くらいかけて少しずつ刈り取る必要があります。その分、草地の回転率が落ちてしまうのは事実です。また、毎日刈る手間や、専用の機械が必要な点もネックです。しかもその機械は今もう販売されていないので、壊れたら部品の取り寄せも難しくなってきていて、今後の更新には正直不安もあります。」 “良い”では終わらせない、“選ばれる”牛づくり
記者「源さんの牛の状態に点数をつけるとしたら、何点くらいになりますか?」
源さん「自分の牛に点数をつけるのは正直難しいんですが、親牛の健康状態、繁殖成績、それに子牛の増体や市場での価格まで総合的に見ると…今の時点で90点くらいはつけてもいいのかなと思っています。まだまだ理想には届いていませんが、自分なりにしっかり手をかけてきた結果として、そのぐらいの評価はしてあげたいですね。」 記者「その残りの10点を埋めて100点に近づけるためには、どんな取り組みが必要だと思いますか?」 源さん「やはり血統の改良が大きなポイントになると思います。もちろん良い血統の牛もいますが、全部がそうではないので、全体のレベルを底上げするにはもう少し努力が必要ですね。購買者に評価されやすい血統構成を意識して、より高い価格をつけてもらえるような牛づくりを目指しています。」 記者「血統の改良は具体的にどのように進めているのですか?」 源さん「いい血統の母牛から生まれた子を保留し、そこにさらに良い種をつけるようにしています。それに加えて、受精卵移植も活用しています。資格は大学時代に取得しているんですが、今は繁殖のプロにすべて任せています。自分は管理や飼育に集中して、種付けはプロの手で確実にやってもらう。要望通りの血統でやってくれるので、そこは信頼して外注しています。」 記者「おすすめのアイテムや道具があれば教えてください。」 源さん「子牛の飼育で特に気に入って使っているのが、“トランスバーラー”という草ですね。繊維がとても柔らかくて細く、子牛でも無理なく食べられるのが特長です。嗜好性も高く、生後2週間くらいから与えても食べる動きを見せてくれます。最初は食べる真似でも、3ヶ月くらいにはしっかり体の基礎となる腹づくりができて、お腹がしっかり張って幅も出てくる。生後3ヶ月までに体の土台をつくるのが重要なので、そこに最適な草だと思っています。オーツヘイのように繊維が強すぎて消化不良を起こすリスクも少なく、非常に扱いやすい飼料ですね。」 記者「生後2週間というと、まだミルク中心の時期ですが、それでも食べるんですか?」 源さん「そうなんです。スターターや水と一緒に、トランスバーラーもバケツにセットしておくと、自然と興味を持って口をつけますね。親についている時なんかは、生後3日くらいでも親牛の食べている草を横から引っ張って真似して食べようとする。牛の本能なんですよ。それを無理に制限するのではなく、「欲しがるなら与えてみよう」という姿勢で実践しています。ただし、繊維の強さや消化性はちゃんと考慮します。無理なく食べられて、健康にもつながる草であることが大前提ですね。」 記者「トランスバーラーは入手は簡単なんですか?」 源さん「実はそれが問題でして…。トランスバーラーは沖縄や離島地域でしかほとんど流通していません。苗を分けてもらって植えれば育ちますが、気温の影響を受けやすく、0℃付近の寒冷地では冬越しが難しい。毎年苗を挿し直さないといけないし、種も発芽しにくい特性があるので、全国的に普及しにくいんですよね。九州でも南部、鹿児島の指宿あたりがギリギリの北限かと思います。本州ではほぼ厳しいんじゃないでしょうか。」 記者「なるほど。使い勝手は良いけれど、地域限定の草なんですね。」 源さん「はい。だから、他の地域の方が使いたい場合は、離島の農家さんに頼んで苗を分けてもらうとか、そういった工夫が必要です。でも、そこまでしてでも使う価値のある草だと個人的には思っています。自分は以前ローズグラス系牧草“カタンボラ”という草も使ってましたが、トランスバーラーの方が繊維が柔らかく、子牛の腹づくりにはより適している印象ですね。」 失敗の中にしか正解はない
記者「源さんの座右の銘について教えてください。」
源さん「『失敗は成功のもと』、これに尽きますね。特に牛に関しては、他の人の成功例や失敗談を聞いても、それが自分の牧場に当てはまるとは限らない。牛の体質も環境も飼い方も全部違うんで、自分の牧場には自分の正解があると思ってます。だからこそ、自分で経験して、失敗して、そこから学びを得ていく。その繰り返しの中で、ようやく“自分なりの正解”が見えてくるんじゃないかと思っています。」 記者「その考え方に至った、印象的な失敗経験などありますか?」 源さん「やっぱりお産ですね。逆子や子宮捻転など、判断が遅れたせいで救えなかった命があって…あの経験から、今は兆候があれば必ず早めに手を入れて確認するようにしています。ただ、それだけじゃなくて、若い牛の育成でも悩んだ時期がありました。生後3カ月までの食い込みが将来の前駆の発育に直結すると思っているんですが、以前、多頭農家さんの真似をして、購入粗飼料のオーツヘイをローズグラスと同じ感覚で与えてしまって…。繊維が強すぎたのか、下痢になってしまって、警戒して思うように食べられない状態になってしまったんです。気づいた時にはもう発育に差が出ていて…あの時は本当に反省しましたね。結局、農場ごとに合うやり方があって、自分の牛を自分の目で見ることの大切さを痛感しました。」 記者「今から畜産を始める人たちが、同じような失敗をしないために心がけるべきことは何だと思いますか?」 源さん「まずは“自分の手に負える範囲”から始めることですね。5~10頭程度で、草刈りもビーバーと軽トラで回せるくらいの規模が理想だと思います。その中で繁殖や育成の技術をしっかり身につけて、安定して平均以上の子牛を出せるようになってから、初めて規模を広げる。最初から牛舎にお金をかけすぎて、借金だけ残るような経営は避けてほしいですね。」 記者「なるほど。利益を安定して出すには、どんなスタイルの経営が理想だと考えていますか?」 源さん「自分の理想は、頭数を増やす“数勝負”じゃなくて、50頭くらいでも、100頭規模の農家と同じかそれ以上の利益が出せる経営です。その方が無駄な設備も雇用も必要ないし、自分の目の届く範囲で丁寧に管理ができる。利益率を上げて、自分のペースで続けていける、そんな牧場経営が一番強いと思っています。」 トランスバーラー
南の島々で育つ希少な牧草「トランスバーラー」は、繊維が細くて柔らかく、子牛でも無理なく食べられるのが特長です。嗜好性が高く、生後2週間ほどから給餌を始めると、自然と興味を持って口をつけ、3ヶ月頃にはしっかりとした体の基礎となる腹づくりに繋がります。オーツヘイよりも消化性が良く、健康的な発育を支える理想的な草として、源さんが重宝しているアイテムです。寒冷地での栽培が難しく、流通も限られるものの、それでも使いたくなる価値ある飼料です。
Writer_T.Shimomuro
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概要和牛農家に3プライドを取材しました。 ■取材日時■
1月 2026
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