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吉岡牧場 吉岡滋
熊本県 合志市 母牛:120頭、子牛:50頭 取材日:2025年11月12日
倒れて見えた、新しい道
記者「吉岡さんが畜産の道に進まれたきっかけについてお伺いしたいんですが、最初は何をされていたんですか?」
吉岡さん「もともとは建設業に携わってたんですけど、仕事中に事故に遭ってしまって…。そのときに“もう現場には戻れないかな”と思って。それで、実家が牛を飼っていたこともあり、“じゃあ自分も牛飼ってみようか”と決意しました。少しは“いつかはやるんじゃないか”という気持ちはあったんですが、その事故が本格的に畜産へ舵を切る転機になりましたね。」 記者「それは大きな転機だったんですね。始めた当初は何頭ぐらいの牛からスタートされたんですか?」 吉岡さん「最初は8頭ほどでした。当時23歳くらいで、今から12〜13年前の話になります。右も左もわからず、まさに手探り状態。でも機械の扱いは建設の現場で慣れていたので、そこはちょっと強みでした。少しずつ覚えながら、牛たちと一緒に成長してきた感じですね。」 記者「それから牧場もどんどん大きくされて、今ではかなりの頭数を飼われていると聞きましたが、一番大変だったことは何ですか?」 吉岡さん「やっぱり資金繰りですね。牛舎を新しく構えたときも、以前の牧場主から受け継いだ土地を、自分たちで一から整備しました。この場所も、もとは草だらけで人の手が入ってない状態でした。それを一から整備して、牛を迎え入れられるようにしたんです。牛を増やすには牛舎も広げないといけない。理想と現実の間で、常にバランスを取りながらやってきました。」 記者「なるほど。牧場の牛舎について、何か特にこだわっているポイントはありますか?」 吉岡さん「運動場の広さですね。うちは牛がよく歩けるように広く確保していて、放牧しなくても運動になるくらいのスペースがあります。もともと草が生い茂ってて向こうが見えないくらいの土地でしたが、そこを借りて、自分たちで手を入れて牛が快適に過ごせる環境にしました。運動場が広いと牛の健康状態もいいし、分娩も自然に任せられることが多くて助かってます。」 記者「お話を聞いていると、着実に一歩ずつ積み上げてこられたんだなと感じます。今後、牧場をどうしていきたいという思いはありますか?」 吉岡さん「これ以上大きくするつもりはあまりないですね。今は自分一人でやってる部分が多いですし、無理に規模を広げても管理が難しくなるだけかなと。もし息子が継ぐって言ってくれたら、その時はまた違った形になるかもしれませんが、今は今のペースでやっていくつもりです。家族の手を借りながら、自分たちらしい牧場経営を続けていきたいですね。」 現場の声が一番の教科書
記者「吉岡さんの牛の育て方について、特に日々気をつけていることやこだわりがあれば教えてください。」
吉岡さん「一番大事にしとるのは“毎日の観察”です。餌をやる時に、1頭でも様子がおかしい牛がおればすぐに気づけるようにしとります。特に、餌を食べに来ない牛は要注意ですね。熱を測ったり、必要があれば別の部屋に移すようにして対応します。毎日見とると、ちょっとした変化にもすぐ気付けるようになるんですよ。」 記者「牛舎の設計や環境面でもいろいろと工夫されているようですね。どんなところに配慮されているんですか?」 吉岡さん「本当は朝日が当たって、西日が当たらんような牛舎が理想なんですけどね。うちは前の牧場主さんから買い取った牛舎なんで、それが難しくて。西日が当たる部分にはギア(よしず)をつけたり、雨の日はカーテンで雨が入らんようにしたりして工夫してます。特に子牛には朝日を当てたいっていう考えがあるけん、将来的には別に牛舎を建てて、子牛専用にしようかと考えとります。」 記者「音楽を流して牛たちをリラックスさせる工夫もされているとお聞きしました。」 吉岡さん「はい、ずっとラジオを流してます。牛が急に音に驚いたりせんようにっていうのもあるし、酪農でも“音楽聴かせると牛乳がよく出る”って話を聞いたことがあって、和牛でも効果あるかもしれんと思ってやり始めました。今ではすっかり習慣ですね。静かすぎると逆に落ち着かん時もありますしね。」 記者「餌についても工夫されていると伺いました。特に“ぐんぐんエース”や“FMB”という名前が出てきましたが、詳しく教えていただけますか?」 吉岡さん「“ぐんぐんエース”は3~5ヶ月の子牛に食べさせとります。これにはモネンシンが入ってて、体が大きくなりやすく、体重もスッと乗ります。ただ、それを9ヶ月10ヶ月までずっと与えると“モネンシンショック”が出る恐れがあるので、うちは5ヶ月で徐々に切り替えます。いきなりやめると下痢したりするので、パラパラと減らしていくんです。FMBはバガスや麦、とうもろこしが入った飼料で、消化が良くて胃袋の“センマイ”もよく育つ。オスにはがっつり食べさせますが、メスには太りすぎないように加減してます。」 記者「吉岡さんの畜産技術は、ご両親から教わったものなんでしょうか?」 吉岡さん「いや、親からはほとんど教わっとらんです。全部ほぼ独学ですね。あと、大きかったのは“飲み会”での学びです(笑)。繁殖農家さんや肥育農家さんたちと酒飲みながら、どんな牛がいいとか、今どんな交配が人気あるとか、リアルな情報を聞くんですよ。現場の声ってやっぱり本で読むよりずっと勉強になるけん、今でも続けてます。」 一歩踏み出せば道はできる
記者「吉岡さんがアソードを導入されたきっかけは何だったんですか?」
吉岡さん「最初は営業の方が持ってきてくれて、“一回試してみてください”って言われたのがきっかけです。ちょうどその時、子牛が下痢してて、試しにアソードを使ってみたら、フンが黒くなって調子が良くなったんです。そこから“これはいいかも”って思い始めて。最初はミルクに混ぜたりもしましたけど、今は夕方だけ食べさせて、それで下痢も治まったので、アソードに切り替える決断をしました。」 記者「なるほど。導入してすぐに効果を感じられたんですね。食べさせ始めの頃に“なかなか食べてくれなかった”というお話もありましたが、どうやって食べさせるようにしたんですか?」 吉岡さん「最初はなかなか食べない子もいました。でも、うちでは“はぐくみ”っていう粉の餌の上にアソードをちょっとずつ混ぜて、“隠すように”してやったんです。最初は手で混ぜて、その上から少しずつ振りかけるようにして。そうするとだんだん慣れてきて、ある日突然ガッツリ食べるようになりました。あとは、1頭だけじゃなくて、数頭一緒に飼ってると競争意識が働いて自然と食べるようになるんですよ。」 記者「実際にアソードを使ってから、どんな変化を一番感じていますか?」 吉岡さん「やっぱり一番は“下痢が少なくなった”ことですね。フンも黒くて健康的やし、匂いも全然違う。前は牛舎に入った瞬間、ツンとする匂いがあったけど、今はそれがほとんどせん。見学に来た人にも“匂いがしませんね”ってよく言われます。やっぱり腸の調子が整っとる証拠なんじゃないかなと思ってます。」 記者「最後に、吉岡さんの座右の銘を教えてください。」 吉岡さん「“やればできる”ですね。昔から親父にも“せんことには何も進まん”って言われとって、実際に牛舎を買う時も“まずやってみるしかない”って気持ちで決断しました。投資も大きかったけど、やるって決めたらどうにかなるもんです。やっぱり、行動せんと何も変わらんですけん。」 FMB
『FMB』はバガス、麦、とうもろこしなどをバランスよく配合した高消化性の飼料で、特に牛の第四胃“センマイ”の発達を促す効果があります。吉岡さんはこの飼料をオス牛にはしっかり食べさせ、筋肉質で大きく育てる一方で、メス牛には太りすぎないよう量を調整して与えているとのこと。胃の健康と消化力の向上を重視する飼養管理の一環として、FMBは重要な役割を果たしています。
ぐんぐんエース
生後3〜5ヶ月の子牛の健やかな成長を支える『ぐんぐんエース』は、体の成長を促す“モネンシン”を配合した飼料です。吉岡さんの牧場では、子牛の体重がスムーズに増え、骨格のしっかりした育成につながっていると実感されています。ただし、長期間与え続けると“モネンシンショック”と呼ばれる影響が出る可能性があるため、5ヶ月を過ぎた頃から徐々に減らしていくのがポイント。急にやめると下痢を起こすこともあるため、慎重に切り替える工夫が大切だといいます。
アソード
営業担当者の紹介で試験的に導入された『アソード』は、子牛の下痢対策として始まりました。吉岡さんは「最初に与えた時、フンが黒くなって調子が良くなった」と効果を実感し、夕方の給餌に取り入れるように。現在では下痢の発生も抑えられ、安定した育成ができているそうです。導入初期は食いつきが悪い子牛もいたものの、粉飼料「はぐくみ」に混ぜて少しずつ慣らす工夫を重ね、複数頭で飼うことで自然と食欲を引き出すことに成功。今では牛舎の匂いも軽減され、「見学者に“匂いがしないですね”と言われるほど」と話す吉岡さん。腸内環境の改善が牛全体の健康に直結していることを実感されています。
Writer_T.Shimomuro
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林田牧場 林田祐知
熊本県 天草市 親牛:14頭、子牛:9頭 取材日:2025年11月11日
天草の風に鍛えられた命
記者「林田さんの牧場では、どのようなこだわりを持って牛を育てているのでしょうか?」
林田さん「うちでは、特に子牛のうちは自由に動き回らせることを大切にしています。まだ部屋に閉じ込めたりせず、4〜5ヶ月くらいまでは放して歩かせるんです。放牧地が遠いので敷地の周辺を自由にうろつかせる形ですが、これでストレスも減って、健康にもいいんですよ。牛が自分のペースで動けるようにしてやるのが一番だと考えています。」 記者「なるほど。そういったスタイルは珍しいと思うのですが、始められたきっかけは何だったのでしょうか?」 林田さん「もう10年ほど前になりますかね。当時、牛をずっと繋いで管理していたんですが、どうも太りすぎたり、健康面でもうまくいかないことがあったんです。細かいうちからしっかり動かしてやる方が、結局は体づくりにも繁殖にも良いんじゃないかと気づいて、それから放し飼いを取り入れました。運動が一番の薬ですね。」 記者「運動以外にも、健康管理で工夫されていることはありますか?」 林田さん「うちはビタミンの投与を一年中欠かさずやってます。ビタミンCや総合ビタミンなどを混ぜて、繁殖成績の向上を狙っています。特に種付けの成功率を高めるためにやっているんですが、それだけじゃなくて、子牛の風邪や肺炎も減った気がします。やっぱり栄養状態を整えておくと、牛全体が元気になりますね。」 記者「天草という土地柄で、牛の飼育に影響している地域特性はありますか?」 林田さん「天草は寒暖差が激しい地域で、夏はすごく暑くて、冬は寒いんです。だから、牛の管理も細かく気をつける必要があります。冬場はヒーターを焚いたり、ジャケットを着せたりして風邪を引かせないようにしています。全国的にもそうかもしれませんが、天草ではその寒暖差への対応が特に重要だと感じています。」 元漁師が歩んだ20年の畜産道
記者「林田さんが畜産を始めたきっかけについて、何かエピソードがあれば教えていただけますか?」
林田さん「もともとは親が数頭だけ牛を飼ってたんですが、高齢で続けるのが難しくなってきて。これはいかんと思って、20年ほど前に自分が本格的に継ぐことにしました。最初は20頭ほどから始めて、少しずつ規模を広げました。実はそれまでは漁師をしてたんです。養殖場で働いてて、そこから牛飼いへ転身。魚と牛では全く勝手が違って戸惑いもありましたが、命を育てるって意味では通じるものも感じています。」 記者「ゼロからのスタートだったということですが、特に大変だったことは何でしたか?」 林田さん「やっぱりお金ですね。資金繰りには本当に苦労しました。最初は借金して牛を導入したり、設備整えたり…それを返していくのがもう大変で。でも、少しでも餌代を浮かせるために、地域の人たちが草刈りで出す“かや”をもらって与えたりして工夫しました。そしたら、思いがけずその“かや”が牛に合ってたみたいで、種がつきやすくなったんですよ。苦労して工夫したことが、いい結果に繋がったのが嬉しかったですね。」 記者「それはすごいですね。今後、牧場の運営について何か展望はありますか?」 林田さん「もうずっと一人でやってきたので、今さら人を雇う気もないんです。ただ、最近では人工授精の成功率も上がって、昔に比べるとだいぶ楽になりました。アソードという飼料を使い出してから、種の付きも良くなって、牛が元気でいてくれる。やっぱり日々の積み重ねと、信頼できる道具や飼料の力も大きいですね。」 記者「林田さんが実際に使っていて“これは役立った”というアイテムがあれば教えてください。」 林田さん「『ビオスリーエース』っていう土壌環境を良くするための菌を1年中与えてるんです。これを使うようになってから、牛舎の環境が格段に良くなりました。昔は子牛がすぐ風邪ひいてたけど、ここ3年くらいは全然。健康な環境を作るって大事だなと改めて実感してます。高い薬を使う前に、まず土から変える。地味だけど、こういうことが後々効いてくるんです。」 利益の前に、感謝を忘れない
記者「林田さんがアソードを本格的に導入されたきっかけについて教えてください。いつ頃から使い始めたんですか?」
林田さん「本格的に使い出したのは、ちょうど1〜2年前くらいですね。最初は堆肥づくりのために振っていたんですが、親牛の体調が悪くなったのがきっかけでした。産後の立ち上がりが悪かったり、腹水が溜まったりして。何か足りないと思ってアソードを牛にも食べさせてみたら、そこから症状が落ち着いてきたんですよ。偶然かもしれませんが、あれ以来大きな病気もなくなって、種付けの成績も良くなりました。」 記者「もともとは堆肥用だったということですが、堆肥に使った時の効果はいかがでしたか?」 林田さん「堆肥の発酵が良くなって、温度の上がりも早かったですね。当時はまだ牛に与える用途じゃなくて、豚向けの飼料が主流だった頃です。それでも『これ、ただの土じゃないな』って感触があって、長年忘れられなかったんですよ。YouTubeで他の農家さんが牛に与えているのを見て、『あ、これならうちも』と思って本格的に導入しました。」 記者「実際に牛に与えてみて、健康面以外に変化はありましたか?」 林田さん「体がしっかり大きくなってきましたね。飼料の吸収が良くなったのか、育ちも早い気がします。下痢が減ったのも大きな変化です。それから、堆肥の質も良くなったので、野菜農家さんに分けたら『味が良くなった』『収量が増えた』って喜ばれました。実際に、みかんやスナップエンドウに使った人からも評判がよくて、うちにも『使ってみんね』って声がかかるようになりました。最初はちょっとしたきっかけでしたけど、今では牛も元気になるし、堆肥もいい、野菜もよく育つ。まさに“生き物を支える土台”みたいな存在です。アソードみたいに自然の力で支えてくれる存在は本当にありがたいですね。」 記者「林田さんの“座右の銘”や、日々の仕事の中で大事にしている言葉はありますか?」 林田さん「やっぱり“生き物に感謝”ってのは、自然と心の中にある言葉かもしれないですね。漁師時代も今の牛飼いの仕事も、いろんな生き物を見てきて、生まれて、育って、死んでいく姿をずっと見てきたからこそ思うところがあります。自分たちはその命に生かされとるけん、やっぱり感謝の気持ちは忘れちゃいけないですね。」 記者「病気の牛や、厳しい状況もたくさん見てこられた中で、その想いはより強くなったんじゃないでしょうか。」 林田さん「そうですね。例えば、昔生まれた子牛で足の形がちょっとおかしくて、育つかどうかも分からんってのがいたんです。でも、その子がなんとか元気に育ってくれた時は、本当に“ありがとう”って気持ちでした。生き物ってのは、こっちがどれだけ手をかけて、気を配ってやれるかで大きく変わる。そういう場面を見るたびに、感謝と責任の重さを感じますね。牛はペットじゃないし、利益を出さなきゃやっていけません。だけど、儲けだけを考えたら絶対に続かないと思います。ちゃんと牛を見て、感謝の気持ちを持って、いい仕事をすれば、結果は後からついてくる。そう信じてやってます。」 ビオスリーエース
牛舎の環境改善に取り組む林田さんが愛用しているのが、土壌環境を整えるための菌『ビオスリーエース』。一年を通して与えることで、以前は風邪をひきやすかった子牛たちの病状の悪化が抑えられるようになったそうです。
アソード
堆肥づくりから牛の健康管理、さらに野菜の品質向上まで、多方面で効果を発揮しているのが『アソード』です。林田さんが本格的に使い始めたのは1〜2年前。もともとは堆肥の発酵促進を目的に使っていたものの、親牛の産後の不調をきっかけに飼料としても取り入れたところ、体調が安定し、種付けの成績も向上。「偶然かもしれないけど、あれから大きな病気もなくなった」と話します。また、発酵の進んだ堆肥は野菜農家にも好評で、味や収量の向上に貢献。「牛も野菜も元気になる、“生き物を支える土台”のような存在」と語る林田さんにとって、アソードは今や欠かせないパートナーです。
Writer_T.Shimomuro
合同会社田畑ファーム 田畑奈々
鹿児島県 大島郡(伊仙町) 育成牛:10頭、親牛:195頭、子牛:121頭 取材日:2025年8月21日
骨格は遺伝、育て方は執念
記者「田畑ファームさんが特にこだわっている点について教えてください。」
田畑さん「やっぱり一番は“フレーム(体格・骨格)の大きい牛”を育ててセリに出すことです。大きく育つ牛は市場での評価も高く、それだけで価値が違います。母牛も元々大きい個体を選んで残してきていて、自然とそうした子牛が生まれやすい環境を整えているんです。小柄な牛はうちの方針に合わないので、そういう個体は最初から避けて、飼いやすく大きく育ちやすい牛を中心に育てるようにしています。」 記者「体を大きく育てるための工夫や取り組みは具体的にどんなことをされていますか?」 田畑さん「まずは母牛へのケアを重視しています。大きな子を産んでもらうには、妊娠中からの飼養管理が重要で、分娩2ヶ月前からは特に濃厚飼料と粗飼料をバランス良く与えています。また、出産した子牛の成長の傾向を全て記録し、次の種付け時に参考にするんです。例えば、メスばかり産む牛やオスが多い牛もいて、それぞれに合った種を選ぶことで、より市場で評価される子牛を目指しています。全てがうまくいくわけではないですが、確実に手応えはありますね。」 記者「種付けもご自身で行っているとお聞きしましたが、どのような経緯で?」 田畑さん「6〜7年前に就農した時に、人工授精師の資格を取りました。それまで保育士と幼稚園教諭をしていたんですが、一から勉強して、永吉ファームさんで研修を受けながら技術を身につけました。永吉さんは本当に島でも一番の繁殖頭数を誇る牧場で、社長さんも若い農家に対してすごく親身に教えてくださる方で、今でも本当に尊敬しています。そこから今までずっと、自分の目で選んで種付けしています。」 記者「コスト管理の面では、特に飼料費がかかると思いますが、どう対応されていますか?」 田畑さん「濃厚飼料は購入ですが、粗飼料はほとんど自家産で賄っています。父が畑の管理を全てやってくれているので、私は繁殖や子牛の管理に集中できています。購入飼料は価格が高騰することもありますし、やっぱり自分たちでコントロールできる部分を増やすというのは経営的にもとても大事だと感じています。畑作と連携することで、飼料コストも大きく抑えられていますね。」 記者「先日、モーモー母ちゃんの集いにも参加されていたようですが、そこで得た学びや気づきはありましたか?」 田畑さん「はい、実行委員としても少し関わらせていただいて、伏見先生の講義が特に印象的でした。“ゴリラの子はゴリラ、猿の子は猿”という例えがすごくわかりやすくて、やっぱり最初から大きく生まれた子は順調に育つけど、小さく生まれた子はその後も手がかかる。だからこそ、子牛の管理だけじゃなくて、もっと前段階の“親牛”へのケアが大切なんだと強く感じました。ミルクの量も、体格に合わせて調整していいと聞いて、今後はロボットの設定も見直していこうと思いました。あのような場で他の農家さんの考えに触れられるのは本当に貴重です。」 数字で語れる牛飼いに
記者「ご自身が育てている牛の状態に点数をつけるとしたら、何点くらいでしょうか?」
田畑さん「そうですね、今は“70点”くらいかなと思います。3〜4年前までは80点をつけてもよかったかなと感じるのですが、当時は両親がバリバリ現場で動いてくれていた時期で、市場の相場も良く、増体も順調でした。ただ私が自家保留の選定を任されるようになってから、血統改善に力を入れた分、どうしても小柄な牛が増えてしまい、以前ほどのフレームの大きさが出せなくなった反省があります。だからこそ今後の改善に期待を込めての“70点”です。」 記者「その点数を100点に近づけるためには、どんな課題があると考えていますか?」 田畑さん「一番は“繁殖成績の改善”です。以前は最大230頭ほど管理していた時期もありましたが、人数はたった4人。発情の発見も難しく、結果的に分娩間隔が空いてしまい…。現在は平均で400日ぐらいの間隔です。本来なら一年一産を目指したいのに、まだまだです。受精卵移植も取り入れていますが、受胎率も思うように改善していません。でも今は、母体の管理や繁殖の記録を自分で一元管理しているので、判断が早くなりました。次はその記録を“データ化”して、もっと見える化していくのが課題ですね。」 記者「育成中の牛の体調管理や疾病への対応はいかがですか?」 田畑さん「子牛の下痢や風邪も時期によって流行ったりします。ワクチン接種や治療も基本的に全部自分でやっているので、以前は本当にキャパオーバーになってしまい…。今はスタッフみんなで役割分担してるのでだいぶ楽にはなっていますけど、それでもやっぱりもう1人必要だなと感じます。そのためにも、子出しの数を増やして収益を上げて、経営を安定させることが、今の私の課題ですね。」 記者「そのような経営改善のために、特に役立っている道具やシステムがあれば教えてください。」 田畑さん「うちでは『肉用牛繁殖経営管理システム』を活用しています。種付けや分娩、セリの売上など、全ての情報を一括で管理できて、必要な時にすぐ確認できるのがとにかく便利。子出しの傾向や母牛の出産歴、生まれた子牛の特徴もメモできるので、次の種付けにすぐ活かせます。通信料もかからず、Wi-Fi環境がなくても使える買い切り型なのも魅力です。徳之島では“どんぶり勘定”が多いと言われがちですが、こういうデータ管理で感覚頼りの経営から脱却していきたいですね。」 謙虚に、太く、まっすぐに
記者「田畑さんが“師匠”として尊敬し、目標にしている方について教えてください。」
田畑さん「はい。私の師匠は、永吉ファーム代表の永吉輝彦さんと、奥様の清美さんです。7年前、徳之島に戻ってきて農業を始めると決めたとき、両親は農業の経験はあっても専門的な知識には自信がなく、『まずは勉強しなさい』と言ってくれました。そこで“島で一番儲かっている農家さん”を聞いたら、皆さんが口を揃えて“永吉さん”と。どうしても現場を見たいとお願いして、県の普及職員の方に繋いでもらい、最初は見学のつもりが、そこから研修として受け入れてくださることになったんです。」 記者「研修を通じて、どんなことを学ばれたのでしょうか?」 田畑さん「もう毎日が学びでした。最初は牛のことも何もわからなくて、輝彦さんにしつこいくらい質問していました(笑)。そしたら『ななちゃん、勉強するなら人工授精師の資格を取ってきたら?』と勧めてくださいました。そこから授精の知識を深めることができたのは本当に大きかったです。そして、奥様の清美さん。あの方の“牛への愛情”は本当に深くて、いつも優しくて、まるで母のような存在です。最初は牛のよだれが嫌だとか、服が汚れるのが嫌とか思っていた私が、今では牛を“可愛い”と思えるようになったのは、清美さんのおかげです。」 記者「そのお二人との出会いが、田畑さんの人生に大きな影響を与えたんですね。」 田畑さん「まさにその通りです。輝彦さんからは“経営者としての視点”や“フレームのある牛作り”を、清美さんからは“牛への愛情と向き合う姿勢”を学びました。お二人がいなければ、今の私は絶対にいません。娘のように可愛がってくださって、本当に感謝しかないです。今後は、私自身が“この弟子を育ててよかった”と思っていただけるような人間になっていきたいです。」 記者「最後に、田畑さんの“座右の銘”を教えていただけますか?」 田畑さん「はい。“実るほど頭を垂れる稲穂かな”という言葉が、私の中で一番しっくりきています。本当にすごい人ほど、偉そうにせず、どんな人の話にも耳を傾ける柔らかさがある。私が尊敬する農家さんや社長さんたちも、常に謙虚で勉強熱心。だから私も、どんな立場になっても人の話に耳を傾けられる、そんな器の広い人間になりたいと思っています。今までたくさんの方に支えられてきたので、これからは私が誰かの支えになれるような、そんな存在を目指したいです。」 記者「今後、田畑さん自身が目指す姿についても教えてください。」 田畑さん「まずは両親に“ゆっくり休んでもらえる環境”を整えるのが第一ですね。父も母ももうすぐ引退を考えているので、その分、自分がしっかり経営者として成長しなければと思っています。将来的には従業員を増やし、農場を安定させたうえで、いずれは規模拡大も目指したいです。そして最終的には、師匠である永吉さんに“この弟子を育ててよかった”と思ってもらえるような、そんな牧場経営者になれたらと思っています。」 肉用牛繁殖経営管理システム
「肉用牛繁殖経営管理システム」は、種付けや分娩、セリでの売上といった情報を一元管理できる、現場目線で使いやすい管理ツールです。母牛の出産歴や子出しの傾向、生まれた子牛の特徴まで細かく記録できるため、次の種付けにもすぐに活用可能。通信料不要、Wi-Fi不要の買い切り型で、電波環境に左右されずに運用できる点も魅力です。感覚や経験に頼りがちな繁殖管理を、データに基づいた戦略的な経営へと導く頼れるアイテムです。
Writer_T.Shimomuro
株式会社奄美大運畜産 政斗真
鹿児島県 大島郡(徳之島町) 親牛:340頭、子牛:230頭 取材日:2025年8月21日
磨けば光る、牛は手間暇の結晶
記者「政さんの牧場で特にこだわっている飼育方法について教えてください。」
政さん「私が担当しているのは主に飼育の現場なんですが、まず一つ目のこだわりは、毎日1時間半から2時間、牛たちをスタンチョンにかけることです。これは、食欲が弱い子牛でもしっかりと飼料を食い込ませるために欠かせない時間なんです。食べ方を見ながら、同じ部屋で飼う牛の組み合わせも調整しています。発育の個体差を減らし、全体の成長を揃えることにも繋がりますし、スタンチョンにかけて立たせておくことで、自然と筋力がつき、姿勢も矯正されていくんですよ。」 記者「なるほど。その“食い込み”というのは具体的にどういった餌で工夫されているんでしょうか?」 政さん「飼料はできる限り新鮮な状態で与えたいので、少量を1日何回にも分けて給与しています。これにより残飼を防ぎ、牛たちが常に新鮮な餌に興味を持ってしっかり食べてくれるようになるんです。どの牛が食べていて、どの牛が食べていないかも明確になるので、体調のチェックや治療の判断にも役立ちます。小さな工夫ですが、牧場経営の基盤になっていると感じています。」 記者「他に特に気を配っている作業やケアはありますか?」 政さん「牛のブラッシングには特に時間をかけています。普通は出荷の1〜3日前くらいに念入りにやる農家さんが多いと思うんですが、うちでは2週間前から時間をかけてじっくり始めます。理由は、ブラッシングがストレス軽減に大きく役立つからです。ストレスが減れば体調も良くなり、発育にもいい影響が出る。そういう意味で、見た目だけじゃなくて内面のケアとしても大事な作業なんです。」 記者「そこまで丁寧にブラッシングをするようになったきっかけは何かあったんでしょうか?」 政さん「実は、後輩に5頭ずつ牛を任せたときがあって、彼らが毎日地道にブラッシングを続けたんです。そしたら驚くほど牛が落ち着いて、食い込みも明らかに良くなって。暴れていた牛も大人しくなって、体型も綺麗に揃ってきたんですよ。それを見て『これは取り入れるしかない』と確信しました。自分のやり方にこだわりすぎず、現場から学ぶことの大切さを改めて感じましたね。」 目利きの前に、"目育て"を
記者「今の牛たちの状態に点数をつけるとしたら、何点くらいになりますか?」
政さん「今のところ、70点ですね。社員のみんなの努力もあって、今年はセリ市で3回最高価格で買ってもらえましたし、地元の先輩方からの評価も高くて、自分の中で掲げている目標に徐々に近づいてきています。特に去勢牛の成績にこだわっていて、平均価格70万円を目指しているところ、今は69万円まで到達しているので、目標まであと一歩という状況です。だからこそ、まだ伸び代があるという意味でも70点という評価をしています。」 記者「なるほど、目標まであと少しなんですね。では、残り30点分、つまり100点を目指す上で、今の課題はどんなところにあると考えていますか?」 政さん「大きく3つあります。まずは繁殖成績の改善で、一年一産を安定して実現すること。次に、死亡事故や分娩事故をゼロにすること。そして最後に、初期育成のばらつきを減らして、セリでの価格の格差を抑えることです。この3つが達成できれば、自信を持って100点をつけられると思っています。」 記者「ありがとうございます。では、その繁殖成績の改善についてですが、今の課題はどこにありますか?」 政さん「一番の課題は、種付けしてもなかなか受胎しない牛がいたり、発情を見逃してしまうケースがあることですね。ここを改善できれば、計画的な繁殖がもっとスムーズに進みます。対策としては、社員全員が発情兆候をしっかり見極められるように、経験を積んでもらっています。マニュアルはあえて作らず、牛一頭一頭を観察する目を養うようにしています。」 記者「従業員さんの目の育成も大事なんですね。その分娩事故の対策については、どうされていますか?」 政さん「分娩監視用のカメラを設置して、24時間しっかりチェックしています。それと同時に、社員それぞれが分娩兆候を見極められるよう、乳房の張りや陰部の緩み、餌の食べ方など、細かな変化を見逃さない観察を徹底しています。あとは、牛を見るときには必ず2人以上で見て意見交換をして、グループLINEで情報を全員に共有するようにしているんです。」 記者「チームで支える体制が整っているんですね。では最後に、体格のばらつきをなくすための工夫について教えてください。」 政さん「体重増加の平均は1.2kgほどなんですが、1.4kgの牛もいれば1.0kgの牛もいて、ばらつきが目立っています。特に離乳前の3か月が勝負だと思っていて、この時期の管理が将来の体格や価格に大きく影響します。飼料設計や栄養管理の工夫でその差を埋めようとしていて、現在は添加剤としてビオスリーを使って対応しています。実際に、腹まわりの深みが出て、食い込みも1.3倍ほどに改善されるんです。」 記者「ビオスリーだけでそんなに変わるんですね。ブラッシングについても非常にこだわりがあると聞きましたが、どういった効果が見られていますか?」 政さん「うちでは出荷の2週間前からブラッシングを始めていますが、これだけで20kg近く体重が増えたり、人懐っこくなったり、毛並みが良くなったりと、目に見えて変化があります。特に腹まわりに深みが出て、体積がしっかりしてくるんです。牛の姿勢も良くなり、ストレスケアにもつながるので、今ではもう必須の作業ですね。ぜひ他の農家さんにも試してもらいたいです。」 習慣だけが結果を語る
記者「政さんが“師匠”と呼べるような存在、あるいは目標にしている方はいらっしゃいますか?」
政さん「はい。自分が入社1年目の時の上司である平山勝也さんですね。年齢は自分の4つ上で、牛飼いとしての技術だけじゃなくて、人としても尊敬できる方です。おしゃべりが好きで、将来の夢やビジョンを語り合える、数少ない存在でした。牛の見方も自分とは違った視点を持っていて、悩んだときにはいつも一緒になって答えを探してくれるんです。自分がこの世界に入ってからのノウハウは、ほとんど平山さんから教わったといっても過言ではないです。」 記者「なるほど。今でも交流があるようですが、どんな場面で相談されることが多いんですか?」 政さん「そうですね、牛が思ったように伸びなかったり、食い込みが落ちたりした時なんかは、真っ先に平山さんに電話します。一緒に考えてくれて、すぐ答えが出るわけではないんですが、最後には納得できる答えにたどり着けるんです。平山さんの目標は“天城町のてっぺんを取ること”。自分もその背中を見てきたので、同じ夢を持って、今も走り続けています。」 記者「素晴らしい師匠ですね。では、その平山さんの夢を継いで、政さん自身の夢も同じなんですか?」 政さん「はい、まったく同じです。“てっぺんを取る”って、単に数字だけの話じゃなくて、“あの牧場には敵わない”って言われるような存在になることです。徳之島は牛飼いが盛んな地域で、1軒1軒の牧場のレベルも高い。だからこそ、そこを突き抜けていくには、並大抵の努力じゃ届かない。でも、平山さんの夢を一生背負って、自分も追いかけていきたいと思っています。」 記者「ありがとうございます。では最後に、政さんの“座右の銘”を教えていただけますか?」 政さん「『瞬間を決定するのは習慣である』という言葉です。これは中学3年の時の担任の先生から教えてもらった言葉なんですが、今でも自分の考え方の軸になっています。牛の才能を伸ばすのも、人間の習慣次第なんですよ。逆に、間違った習慣で牛をダメにしてしまうことだってある。特に分娩や死亡事故は、一瞬の判断ミスが命取りになることもあるので、日々の準備や観察を怠らない“習慣”が大切なんです。事故が起きても仕方ないとは思いたくない。減らせるものなら、ゼロに近づける努力をする。牛も人も、お互いがいなければ成り立たない関係だからこそ、命を守ることには本気で向き合いたいですね。」 牛かきブラシ
どの牧場にもある身近な道具「牛かきブラシ」ですが、丁寧なブラッシングによって牛の姿勢が整い、人懐っこくなるなど、ストレス軽減や健康維持に大きく貢献します。毛づやも良くなり、食い込みが増して腹回りの深みにも差が出るなど、体積や体重の向上にもつながる優れもの。導入から2週間で目に見える変化が現れるため、日々の管理に取り入れる価値のあるアイテムです。
Writer_T.Shimomuro
壱心farm 基山美奈子
鹿児島県 大島郡(伊仙町) 母牛:60頭、子牛:45頭、闘牛:3頭 取材日:2025年8月21日
血を選び、代を重ねて、形にする
記者「基山さんの牧場での“こだわり”について教えてください。」
基山さん「うちは繁殖農家として、母体作りに一番力を入れています。種付けして、良い子牛を生ませるのが仕事の要。だからこそ、基礎となる母牛の血統や体調管理には特に気を使っています。自分が肉牛を始めた当初から血統重視でやっていて、その血を受け継ぐメス牛を残して代を重ねていく。今の牧場は、そうやって作り上げてきた形なんです。」 記者「特にどの血統を使っているんですか?」 基山さん「一番の柱は“安福久”の血を引いた母体ですね。この牛の力は群を抜いていると思っていて、たまたま人気が出る直前に、うちでメスが立て続けに生まれたんです。その子たちを全部残して増やしていった結果、A5の12番の評価をもらう子牛がどんどん出るようになりました。購買者さんからも“メスが生まれたら必ず保留して”と言われるくらいで、今じゃ繁殖牛の8〜9割が自家産の牛です。」 記者「繁殖成績もすごく良さそうですね。」 基山さん「おかげさまで、2023年は分娩間隔が365日できていて、翌年は372日と安定した成績を出せています。出産後すぐには無理をさせず、発情2回目、だいたい30〜40日目あたりで子宮の回復を見て種付けします。一年一産はもちろん、より早いペースでまわせるようになってきているので経営的にも助かっています。ここは本当に慎重に、でも着実にやっている部分です。」 記者「種の付きやすさについてはいかがでしょうか?」 基山さん「だいたいの牛は1回、長くても2回でついてくれます。もちろん例外はあって、4〜5回かかる子もいますが、全体としては優秀だと思いますね。これは母体の質と、受精師さんの腕の両方に助けられている部分だと思います。あとは栄養管理も大事で、うちでは青草よりもロールサイレージが多い分、ビタミンが不足しがちになるので“ビタラップ”というサプリを産後2週間に1回は欠かさず与えています。」 記者「闘牛についても飼育されていると聞きました。こだわりはありますか?」 基山さん「闘牛は義父の代から続けているんですが、うちのこだわりは“自家産”であること。他の牧場から牛を買ってくることなく、自分たちの牧場で生まれたオスをそのまま闘牛として育てていくスタイルです。闘牛の血を引く無登録メス(血統登録のないメス)に種をつけて、そこから生まれたオスを選抜して投入しています。特に、かつて『第2勝王号』という登録牛を闘牛の母体に掛け合わせて生まれた牛が、全島一になるほどの活躍をしてくれたことは、うちの誇りですね。」 “一勝”の先にある、“壱心”の物語。
記者「壱心ファームさんの牧場について教えてください。牧場を立ち上げられたのはどなたですか?」
基山さん「私が初代になります。特に大きな牛舎というわけではありませんが、自分の手の届く範囲で、しっかり牛を見ながらやっていける規模を大事にしています。畜産を始めたきっかけは、もともと家が闘牛一家で、毎日草を刈るなら、その草も無駄にせず、登録牛を飼って少しでも収入につなげたいと思ったからなんです。趣味の延長のようなスタートですが、今では大切な仕事になっています。」 記者「闘牛は昔からやられていたんですね?」 基山さん「そうですね、嫁ぎ先が、闘牛一家だったので、自然と牛も家族の一員のような存在になってましたね。家族全員で牛に愛情を注いで育ててきました。時には、自分たちの子供よりも牛を大切にしている…というと語弊がありますけど、それくらい牛に情熱を注いできたんです。勝てる牛を育てる、その夢があるからやめられないんですよ。」 記者「壱心ファームという名前にも意味があるんですよね?」 基山さん「はい、実は孫の名前から一文字ずつ取ってつけました。孫の“壱大”ともう一人のお姉ちゃんが“心彩”という名前でして、その"壱"と“心”を合わせて“壱心”です。家族の思いが詰まった名前なんです。」 記者「息子さんも一緒に牧場をやられていると聞きました。」 基山さん「そうなんです。ちょうど2年前の9月に長男が夫婦で帰ってきてくれて、一緒に牧場をやってます。まだ子供はいませんが、いずれ次の代に繋がってくれればという思いもあります。ただ、私たちの役目は息子にしっかりバトンを渡すこと。あとは息子たちが先のことを考えてくれればいいかなと思ってます。」 記者「闘牛の今後の目標などがあれば教えてください。」 基山さん「今、闘牛が3頭いますが、まずは“1勝”が目標ですね。自信のある牛がいて、1勝1敗の成績なんですけど、稽古中に角を折ってしまって…3分の2くらい失いました。でも、やる気はあるので、治ったら復活させたいです。もう一頭はデビューが早すぎたのか、喧嘩をしなかった子で、相手の不戦勝になってしまいましたが、今一番期待している牛です。体重は900kgくらい、中量級でチャンピオンを狙える器だと思ってます。」 記者「牧場で使っているおすすめの道具やアイテムがあれば教えてください。」 基山さん「“アベイラ4”という添加剤ですね。ジンプロという会社の製品で、これを使い始めてから繁殖成績がグッと上がりました。価格は30kgで36,000円ほどと高めですが、与える量は1日10〜30g程度なので、意外と長持ちします。発情がわかりづらかった牛が明らかに変わって、今ではほとんどの牛が1〜2回で種が付きます。導入前は3〜4回が当たり前だったんですけどね。今ではピンポイントで体調に不安のある牛に使うようにしていて、結果にも満足しています。」 “できるか”より、“やるか”
記者「壱心ファームさんでは、アソードという飼料をかなり前から使っていただいていると聞きました。導入のきっかけは何だったんでしょうか?」
基山さん「きっかけは、慢性的な下痢が止まらない子牛がいたことです。何をやっても食欲がなく、特に濃厚飼料を食べてくれなくて、身もつかない状態でした。そんな時に知人から『これ、いいよ』と紹介されたのがアソードでした。試しに飼槽にポンと置いてみたら、下痢の子が舐めてくれて、それをきっかけに濃厚飼料も食べるようになったんです。その子は痩せてましたが、なんとかセリに出せて、これには本当に助けられました。」 記者「その子はその後、どうなったんですか?」 基山さん「その子はセリではそんなに高値はつきませんでしたが、出荷された先でグングン伸びて、最終的には体重800kg超え、枝肉で500kg以上になったと聞いています。本当に奇跡のような成長でした。腸内環境が整ったおかげで、後の伸びに繋がったんだと思います。」 記者「それはすごいですね。熊本でも『アソードをあげた牛は伸びる』って話をよく聞きますけど、壱心farmさんもまさにそれですね。他にも印象に残っているエピソードはありますか?」 基山さん「同じように慢性下痢のメスがいて、売っても値段がつかないだろうから保留したんです。アソードをあげ続けていたら、みるみるうちに体調が改善して、登録時には立派な体型に成長してくれて。1回で種もついて、今ではうちの優秀な母牛のひとつになってます。その子の子牛も残すほど良い血統に育って、今じゃ“ばあちゃん牛”として活躍してくれています。」 記者「長く使われてきた中で、使っている時と使っていない時での違いを感じたことはありますか?」 基山さん「実は導入の牛で下痢がひどくなった子がいたんです。今も体つきがガリガリで…。その時アソードが切れていたんですよね。『あの時にあげていたら…』って今でも思います。やっぱり腹づくりや体調管理には大きく関わってくると実感してます。」 記者「最後になりますが、基山さんの“座右の銘”を教えてください。」 基山さん「『為せば成る』ですね。元々、夫が郵便局員で、私は一人で牛飼いをしていました。女だからできないって言われるのが本当に嫌で、自分で牛舎の屋根を建てたり、トラクターの免許も40歳過ぎてから取りに行ったりしました。お産も、最初は獣医さん頼りでしたが、今では異常じゃない限り、自分で全部やります。子牛を死なせた経験があるからこそ、何としてでも守りたいという思いが強くて…。努力すれば、結果はちゃんとついてくるんです。だから、若い人たちにも『まずはやってみて』と伝えたいですね。」 アベイラ4
ジンプロ社のミネラル添加剤「アベイラ4」は、繁殖成績の向上に効果を発揮するアイテムです。1日10〜30gの少量投与で、発情が分かりにくかった牛にも明らかな変化が見られ、種付けの成功率が向上。以前は3〜4回必要だった種付けが、今では1〜2回で済むようになったと基山さんも実感。高価ながらもコストパフォーマンスに優れ、体調管理にも役立つ心強い飼養サポート製品です。
アソード
子牛の腸内環境を整える栄養補助資材「アソード」は、下痢や食欲不振の改善に効果が期待できるアイテムです。実際に慢性的な下痢で濃厚飼料を食べなかった子牛が、アソードを舐めたのをきっかけに回復し、最終的には800kg超の体重にまで成長した事例もあります。他にも、体調を崩して売れなかったメス牛が母牛として活躍するまでに成長したケースも。継続使用により、腹づくりや食い込みの改善が見られ、牧場全体の成績向上にも貢献。基山さんは繁殖牛への活用も視野に入れており、母体の回復促進や後産停滞予防への効果にも注目しています。
Writer_T.Shimomuro
日高牧場 日高卓磨
鹿児島県 大島郡(伊仙町) 育成牛:3頭、親牛:42頭、子牛:20頭 取材日:2025年8月20日
牛に託す闘争心
記者「日高さんの牧場で、特にこだわっていらっしゃるポイントを教えてください。」
日高さん「うちの牧場では、人工授精の際にエコー診断装置を活用しています。それに加えて、子牛の体重を毎月測って、1日あたりの増体量(DG)を数値でしっかり管理しています。また、出荷の平均が270日ですが、うちはあえて220〜230日ほどで早出し。しかもその時点で300kg以上になるよう育てています。感覚に頼らず、数字と目で見て判断するのが自分のスタイルですね。」 記者「数字や見える形で判断するというのは、日高さんならではのこだわりなんですね。飼料の部分でも何か工夫されていますか?」 日高さん「特に気をつけているのがミルクから餌への切り替えです。この時期にストレスをかけると一気に食いが落ちるので、できるだけ自然に切り替えられるよう心がけています。切り替え方一つで体重の伸びがまったく変わるんです。自分のやり方にしてからは、同じ時期の子と比べても体重が明らかに違ってきましたね。」 記者「そのミルクから餌への切り替え、具体的にはどんな工夫をされているんでしょうか?」 日高さん「うちは夜行性の牛が多いので、まず夕方のミルクを1週間かけて少しずつ減らしていきます。完全にやめたら次は朝の分を1週間かけて減らす。この“じっくり2週間”がポイントで、急がないことで牛のストレスを最小限に抑えられるんです。夜にしっかり餌を食べさせるようになると、胃の作りも変わって、日中もちゃんと食べてくれるようになるんですよ。」 記者「牛の性質に合わせた方法でストレスなく切り替えているんですね。他にもこだわっている点があれば教えてください。」 日高さん「自分のところでは闘牛も飼っているんですが、毎日外に出して運動させたり、スキンシップとしてブラッシングをしてあげることも欠かしません。ストレスが溜まると人に向かってくることもあるので、常にリラックスした状態を保つよう心がけています。牛の状態をよく観察して、ちょっとした変化にも気づけるようにしています。」 記者「闘牛は何歳ぐらいから本格的に大会に出場できるんですか?」 日高さん「個体差はあるんですけど、だいたい4〜5歳くらいからが目安ですね。その頃になると体格も整ってきて、試合でしっかり闘えるようになります。血統や気性も大事ですが、やっぱり大きさ、つまり“増体”が鍵ですね。体重がある分だけパワーも違ってきますから。」 記者「闘牛の大会には体重別のクラスがあるんですか?」 日高さん「あります。1トン以上が『全島一(ぜんとういち)』という無差別級のようなクラスで、その下に重量級(〜1,000kg)、中量級(〜900kg)、軽量級(〜800kg)、ミニ軽量級(〜700kg)と分かれています。試合の1ヶ月前には市場で計量があって、そこでどのクラスで戦うかが決まるんですよ。ちょうどボクシングのような感じです。」 記者「なるほど。ちなみに日高さんの牛はどのクラスで戦う予定なんですか?」 日高さん「今は1歳半の牛が2頭いて、大きいほうはすでに1.2トンあるので全島一クラスになります。もう一頭は軽量級になるかなって感じです。まだ実績はないですが、これからですね。闘牛場に出る前に軽く喧嘩はさせたりしていますが、本格的な大会にはまだ出してません。」 記者「町をあげて大会が開かれるとも聞きました。かなりの盛り上がりだそうですね?」 日高さん「はい、ポスターも貼られますし、SNSでも告知されてます。大会によっては2,000〜3,000人ぐらい集まることもあって、島全体がひとつになるイベントです。やっぱり闘牛は島の文化ですから、みんなの気持ちが熱くなるんですよね。」 記者「そういった環境の中で、観察力もかなり磨かれると聞きますが、実際のところどうですか?」 日高さん「やっぱり毎日牛の顔を見ていると、ちょっとした変化にもすぐ気づくようになります。『今日元気ないな』『なんか違和感あるな』って、まるで家族のように感じるんです。そういうのが自然と身について、ある意味“洞察力”みたいな感覚にも近いですね。」 記者「闘牛と普通の牛の飼育で、大きく違う点はありますか?」 日高さん「ありますね。どの牛も大切にしていますけど、闘牛はもう自分の子どもみたいな存在です。寝るときも汚れないように敷物を敷いてあげたり、ハエが寄らないように清潔を保ったり、とにかく快適に過ごせるように気を遣います。子牛なんかは2日に1回はブラッシングしていますよ。」 記者「日高さんにとって、闘牛の魅力ってどんなところにあるんですか?」 日高さん「自分がずっと可愛がってきた牛が、命をかけて闘う姿を見ると、なんていうか…自分の中にある“闘争心”を代わりに出してくれているような感覚があります。人間は簡単に喧嘩なんてできないけど、牛を通して自分の想いをぶつけられるっていうか。勝った時の喜びは格別ですよ。」 記者「まさに格闘技のような魅力があるんですね。ブレイキングダウンとかプロレスみたいな、闘いの中にある“熱”に惹かれる感覚と似ているのかもしれませんね。」 日高さん「そうですね。喧嘩って言ったら聞こえ悪いかもしれないけど、あの熱さとか緊張感、そして勝ったときの達成感。闘牛の魅力って、そういう“本能”を刺激してくれるところにあるんじゃないかなって思います。」 未熟こそ武器、牛と自分を育てる道半ば
記者「今、飼っている牛の状態に点数をつけるとしたら、何点くらいでしょうか?」
日高さん「うーん、自分の中では50点ですね。セリで高値がつくような牛も出せるようにはなってきたんですけど、やっぱり自分自身まだ27歳で、まだまだ未熟だと思ってます。これからもっと成長して、納得のいく牛づくりができるようにっていう意味も込めて、あえての50点ですね。」 記者「なるほど、その50点という評価には、具体的にどんな課題があると感じてらっしゃいますか?」 日高さん「今は牛の半分くらいに受精卵を使っているんですけど、夏場になると受胎率がやっぱり落ちるんですよね。温度や湿度の影響もあると思いますが、そこが大きな課題ですね。もう少し安定して繁殖できるようにしたいという思いは強いです。」 記者「やはり闘牛も飼っていらっしゃる分、増体などにもかなり気を遣われていると思います。220〜230日で300kg以上の牛というのは、なかなか大変な基準では?」 日高さん「そうですね。増体を狙っていく中で、どうしても体重が伸びにくい子牛もいます。そういった場合は、親の系統に問題がある可能性もあるので、いい種牛の受精卵を使って次の世代につなげるようにしています。そうすることで、将来的に強くて育てやすい牛が増えていくと思っています。」 記者「ちなみに、今注目している種牛やおすすめの血統などはありますか?」 日高さん「鹿児島県の『正忠平』っていう系統が、自分の中では今すごく気に入ってます。『勝忠平』の血を受け継いだ牛で、自分で実際に育ててみた感触としては、とにかく育てやすいし、体格もしっかりしています。増体が良いというのは、育てる上でかなり大きなメリットです。」 記者「おすすめアイテムや道具があれば教えてください。」 日高さん「やっぱり『エコー』ですね。人工授精のときに使う超音波診断機なんですけど、これがあるのとないのとでは大違いです。以前勤めていた牧場でもずっと使っていて、自分の牧場を始めてすぐに導入しました。感覚に頼るんじゃなく、実際に目で確認できるのは大きいですね。」 記者「感触だけでなく、目で見て判断できるというのは安心感も違いますよね。導入されている農家さんも増えているんでしょうか?」 日高さん「まだ島では10人くらいしか使ってないと思います。だからこそ、自分にとっては“武器”だと思ってます。今使っているのは、鹿児島の獣医さん・伏見先生に紹介してもらったカラードップラーの機種で、血流も色で見えるんです。高性能でありながら価格も手頃で、重宝しています。」 知ることが、生き残る力だ
記者「師匠や、目標にされている方がいれば教えていただけますか?」
日高さん「はい。やっぱり同じ島の永吉夢輝さんや輝彦さんですね。島内で一番の頭数を持っていて、長年やってきた経験や姿勢には本当に尊敬しかないです。自分も負けてられないなって、いつも刺激を受けてます。同じ島にいるからこそ、身近な目標として意識していますし、農家としての在り方を学ばせてもらっています。」 記者「永吉さんは全国でも有名な繁殖農家さんで、頭数も2,000頭を超えているとか。すごいですね。」 日高さん「ほんとにすごいです。正直、頭数では勝てないと思ってます。だからこそ、何かひとつでも勝てるものを持ちたい。そう思って日々努力しています。やっぱり何もかもで勝とうなんて思っても無理ですから、自分なりに強みを作って、そこでは絶対負けないって気持ちでいます。」 記者「目指すべき存在ですね。闘牛の世界では目標にしている方はいらっしゃいますか?」 日高さん「やっぱり父ですね。祖父の代から牛を飼ってて、父もずっとやってきているんですけど、闘牛の目利きに関しては本当にすごいです。小さい頃から、“この牛はここが良い・悪い”っていうのを細かく教えてくれて、今でも自分には見えてない部分が見えているんです。他の人は教えてくれないようなことも父からは学べる。やっぱ負けたくない存在ですね。」 記者「最後に、日高さんの“座右の銘”を教えていただけますか?」 日高さん「“無知が一番のリスク”ですね。やっぱり何も知らないと、何もできない。生き物を相手にしていると、いつ何が起きてもおかしくないんです。だからこそ、何かを知っていれば、それに対応する術を考えられる。知らないことが一番危ないって、日々感じてます。自分はまだまだですが、だからこそ常に勉強して、もっと上を目指していきたい。調べて、聞いて、やってみて、っていう繰り返しですね。」 エコー(超音波診断装置)
人工授精時の確認に役立つエコーは、視覚的に妊娠状態や血流を確認できる優れた診断機器です。感触だけに頼らず、正確な判断ができるため、繁殖管理の精度が大幅に向上します。日高さんは導入直後からその効果を実感し、現在はカラードップラー機種を愛用。高性能ながら価格も手頃で、“自分の武器”と語るほど信頼を寄せる重要アイテムです。
Writer_T.Shimomuro
株式会社豊畜産 豊幸男
鹿児島県 大島郡(天城町) 育成牛:14頭、親牛:139頭、子牛:103頭 取材日:2025年8月20日
水と草にかける情熱
記者「豊さんの牧場で大切にしている“こだわり”を教えていただけますか?」
豊さん「一番はやっぱり水ですね。昔、川の水をそのまま使っていた時期があったんですが、夏場に子牛の下痢が多発してしまったんです。最初は原因が分からず、薬を打っても治らない。試行錯誤した結果、水が原因だと気づきました。それで200メートルも水道を引いてきて、常にきれいな水を飲ませられるようにしました。今は朝晩の水交換も欠かさず、冷たい水を用意するなど細かい工夫で牛の健康を守っています。」 記者「水を水道に変えたことで、実際に改善は見られましたか?」 豊さん「はい、大きな違いがありました。川の水は見た目はきれいでも、菌や不純物が含まれていることがあるんですよね。特に夏は水をよく飲むので、そこで影響が出ていたんだと思います。水道水に切り替えてからは下痢の発生がぐっと減りました。子牛はちょっとした体調不良が成長に直結するので、水回りの管理は本当に重要です。水を替えるだけでこんなに違うのかと、改めて実感しました。」 記者「牛のストレスケアの工夫をされているとお聞きしました。」 豊さん「水の温度管理もそうですが、牛の過ごしやすさを考えることが大事だと思っています。夕方に冷たい水を飲ませるため、朝のうちに汲んで準備しています。子牛は環境のちょっとした変化に敏感なので、ストレスをできるだけ減らす工夫が欠かせません。人間と同じで、毎日の小さな積み重ねが健康につながると感じています。」 記者「水以外では、自給飼料にも力を入れていると伺いました。」 豊さん「はい。今は親牛の粗飼料の90%以上が自給飼料です。特に夏は青刈りした草を与えるようにしています。乾燥牧草より栄養価が高く、ビタミンも豊富で、牛が喜んで食べるんです。それに発情の兆しも分かりやすくなって、繁殖の面でも効果を感じています。手間はかかりますが、自分の目で見て育てた草を食べさせると、牛の反応が返ってきて面白いんですよね。努力が形になって見えるから、やりがいを感じます。」 牛の口から畑の土まで循環を刻む
記者「豊さんの牛の状態に点数をつけるとしたら、何点くらいだと思われますか?」
豊さん「うーん、正直に言えば60点くらいでしょうかね。本当は気持ちでは100点をあげたいんですが、牛舎の設備がまだ追いついていない部分もあって、どうしても減点せざるを得ません。急に牛を増やした時期があって、その勢いに環境づくりが追いつかず、牛に負担をかけてしまったと感じています。寒さや暑さの中でも元気に過ごしてくれているのが救いですが、体型や骨格の理想にはまだ届いていないんです。」 記者「なるほど。60点の理由となっている“マイナス40点”の部分は、具体的にはどのあたりでしょうか?」 豊さん「体の大きさや繁殖に関わる部分が大きいですね。代々の血統を大事にしてきたので小ぶりな牛が多いのですが、今の相場だとやはり大きい牛の方が評価されやすい。その差が見た目にも出てしまいます。そこにさらに大きな牛を掛け合わせると、母体への負担も増える。牛に頑張ってもらっていると分かりながらも、そこが改善点だと感じています。」 記者「ボディコンディションについては、どのように見ていますか?」 豊さん「これもやっぱり60点から70点といったところでしょうか。青草を与えているので元気はあるんですが、A5クラスに仕上がるにはまだ足りない。近いところまでは来ているんですけどね。見た目の張りや脂の乗り、全体のバランスがもう少し整えば、理想に近づけると思っています。やっぱり餌の設計や種付けの工夫で改善していかないといけないですね。」 記者「そのプラス40点を埋めるために、今どんな対策をされているんですか?」 豊さん「種付けの段階で、あえて大きい牛を選んで掛け合わせるようにしています。それから、飼料設計ではビタミンを月に一度補給し、毎日ミネラルを切らさないようにしています。ニューハイコロイカルを毎日与えているのもその一つです。農協で扱っていることもあり、この地域では多くの農家が使っているんですが、やっぱり牛の体調維持には欠かせません。細かい積み重ねで、少しずつ100点に近づけていきたいと思っています。」 記者「豊さんのおすすめのアイテムや道具はありますか?」 豊さん「自分が一番薦めたいのは“ロールカッター”ですね。もう12〜13年使っていますが、これがあるのとないのとでは全然違います。長い草のまま与えると、牛同士で引っ張り合ったり、強い牛だけが多く食べたりしてしまうんです。ロールカッターで細かく刻んで与えると、みんなが均等に食べられて、個体管理がしやすくなります。導入した当初から“これはいい”と実感していて、今ではなくてはならない道具になっています。」 記者「なるほど。ロールカッターの導入でかなり改善するものがあったのですね。」 豊さん「はい、刻んであるので残飼も少なくなりますし、牛が横取りしにくいので無駄が減ります。それに残った草も細かいから堆肥に混ざりやすく、枯れるのも早い。畑に戻す時にすごく扱いやすいんです。長い草だとマニアスプレッダーに絡まってしまうこともあるんですが、細かくなっているとその心配もありません。牛にとっても、畑にとってもメリットが大きいですね。」 記者「牛が食べた後のことまで考えると、効果はさらに大きいんですね。」 豊さん「そうなんです。うちはジャガイモも作っているので、堆肥や残草を畑に還元することはとても大事です。ロールカッターで細かくしておけば有機物としてすぐ馴染むし、土作りにもつながります。牧場の仕事は“牛に食べさせて終わり”じゃなくて、畑に戻す循環まで含めて考えないといけない。そういう意味でもロールカッターは自分にとって頼もしい相棒ですね。」 リスクに挑むか、衰退か
記者「豊さんにとって、師匠や目標にしている方はいらっしゃいますか?」
豊さん「いますね。“城さん”という授精師の先輩です。何も分からなかった頃に、一から授精の技術や牛の血統の見方、さらには飼料の工夫まで徹底的に教えてくれました。あの時期がなかったら、今の自分はありません。150頭まで牧場を広げられたのも、すべて城さんの存在があったからだと思っています。」 記者「城さんはどんな方なんでしょう?」 豊さん「仕事の時は本当に厳しいです。少しの油断も許さない、そんな姿勢でした。でも一方で、仕事を離れると冗談を言って笑わせてくれる優しい一面もあります。厳しさと温かさの両方があったから、自分もついていくことができたんでしょうね。あの人の人柄と指導に救われました。」 記者「その城さんとの出会いは、どういうきっかけだったんですか?」 豊さん「大学を出て鹿児島で研修をしたんですが、忙しくて授精の勉強はほとんどできませんでした。島に戻った時、親の牛を手伝いながら“これでは伸びない、授精を覚えなきゃ前に進めない”と強く思ったんです。思い切って城さんを訪ねて、『教えてください』と頼みました。すると『明日から来い』と言ってくれて、そこから半年以上、弟子のように毎日通いました。その時学んだことが、今の牧場経営の土台になっています。」 記者「最後に、座右の銘を教えてください。」 豊さん「自分の座右の銘はMeta〈旧Facebook〉の創業者であるマーク・ザッカーバーグの言葉で“リスクを取らないことが最大のリスク”です。挑戦せずに安全ばかりを選んでいたら、牧場は大きくならなかったと思います。たとえば、安福久という種が出たとき、資金も少ない中で思い切って30本買ったんです。周りからは『無謀だ』と笑われましたが、その選択が大きなきっかけになりました。それ以来、良いと思った種は100本でも200本でも買います。もちろん失敗もありますが、その経験が必ず次につながるんです。リスクを取れば成功する保証はないけれど、挑戦しなければ何も変わらない。失敗から学び、挑戦を積み重ねることで、自分も牧場も確実に成長してきました。だからこそ、自分はこれからも“リスクを恐れない”ことを大事にしていきたい。挑戦こそが牧場を前に進める力になると信じています。」 ロールカッター
長年愛用されているロールカッターは、ロール状の草を細かく刻んで給餌できる便利な機械です。草を細断することで、牛同士の餌の奪い合いを防ぎ、どの牛も均等に食べられる環境が整います。食べ残しが減り、余った草も堆肥として扱いやすくなるため、畑への還元もスムーズ。牧場と畑の循環を意識する豊さんにとって、牛の管理から土づくりまで支える頼れる相棒です。
Writer_T.Shimomuro
浅野ファーム 浅野茂彦
鹿児島県 大島郡(天城町) 育成牛:6頭、親牛:74頭、子牛:50頭 取材日:2025年8月20日
個人技からチーム戦へ
記者「浅野さんの牧場で大切にされているこだわりについて、まず教えていただけますか。」
浅野さん「うちは『一年一産』にこだわっています。そのために牛の状態を常に見える化して、誰が見てもすぐに把握できる仕組みづくりに力を入れています。例えば大きなホワイトボードに分娩や種付けの予定をすべて書き出し、スタッフ全員が同じ情報を共有できるようにしています。パソコンに向かうのが苦手な人でも、目に入れば理解できる。この“誰でもできる管理”が牧場経営の土台なんです。」 記者「ホワイトボードで管理されているのは、具体的にどういった理由からなのでしょうか。」 浅野さん「役場に勤めていた頃に、繁殖経営管理のシステムを作ったことがあるんですが、やはり農家の現場ではパソコンを開く時間がなく、結局活用されにくいと感じました。その点、ホワイトボードなら牛舎にいれば誰でも確認でき、書き込みも簡単。『誰が見てもすぐわかる』というのが一番大事で、それができれば自分だけでなく誰でも同じように牛を管理できるんです。経営が個人依存にならず、チームとして動ける仕組みが自然とできるんですよ。」 記者「一年一産を実現するために、日々どんなことを意識して取り組まれていますか。」 浅野さん「分娩後どれくらい経ったかをホワイトボードで管理し、発情の兆候を見逃さないようにしています。2か月以内に種付けできるかどうかがポイントになるので、そこをしっかり押さえることですね。ただ、獣医さんからは『間隔が狭すぎる』と指摘を受けることもあり、牛に無理をさせないよう種付けの時期を調整することもあります。牛の体調と繁殖成績、そのバランスを見ながら常に修正をかけていくのが大事だと感じています。」 記者「牛の健康管理や栄養面で、特に欠かさず取り入れていることはありますか。」 浅野さん「牛の状態に合わせて群を分け、栄養をきちんと行き渡らせるように工夫しています。発情が来ない牛も中には出ますが、そうした場合は迷わず獣医さんに診てもらい、治療で早めにリカバリーする。人任せではなく、自分たちでできることをやりつつ、専門の力も借りていく。そうした積み重ねが結局は安定した繁殖につながると思っています。」 立ち止まる勇気
記者「浅野さん、ご自身の牧場の牛の状態に点数をつけるとしたら、今は何点くらいでしょうか。」
浅野さん「正直に言えば70点くらいですね。理由は、分娩間隔を詰めすぎたことで子牛にトラブルが出てしまったからです。先月は2頭の子牛を失ってしまい、獣医さんからも“免疫がしっかり移行する前に次の分娩を迎えているのでは”と指摘を受けました。一年一産を守るのは大切ですが、健康な子牛が育たなければ意味がありません。その30点のマイナスを踏まえての70点です。」 記者「なるほど。今まさに改善に取り組まれていると思うのですが、具体的にはどのような方法を試しているのでしょうか。」 浅野さん「はい、今は分娩後すぐの種付けを控えて、3回目の発情で種をつけるように見直そうとしています。これで牛の体を少し休ませ、子牛にもしっかり免疫が移るようにする狙いです。確かに一年一産を守るにはギリギリの調整になりますが、牛に無理をさせてしまっては続きません。7月に事故があってからまだ実践途中ですが、結果を見ながら改善を重ねていくつもりです。」 記者「牛の管理や健康面で、浅野さんがおすすめするアイテムや道具があれば教えてください。」 浅野さん「子牛は生後4日で母牛から離すんですが、その時に下痢が出やすいんです。そこで今は獣医さんに教えてもらった『ビオスリー』という生菌剤を活用しています。いろんな添加剤を試しましたが、これが一番効果を実感できました。腸内環境が整うのか、下痢の症状が軽くなり、子牛が元気に育ちやすくなったように思います。現場で使える実感のある道具はやっぱり強い味方ですね。」 遊びも仕事も全力投球
記者「浅野さんにとって、師匠や目標にしている方はいらっしゃいますか。」
浅野さん「はい、実は義理の兄たちが自分の大きな支えであり目標なんです。経営の面では輝彦さんを、繁殖改良の面では浩次さんを尊敬しています。輝彦さんは“どうせやるなら大型化して効率よく”という考えを持っていて、小さなロールを何個も作るより大きなロールを一つ作る方が管理もしやすいと教えてくれました。自分はまだ規模は小さいですが、経営の方向性を考える上で兄の影響はとても大きいです。」 記者「浩次さんについても教えてください。繁殖改良ではどんな影響を受けているのでしょうか。」 浅野さん「今は種付けの多くを浩次さんにお願いしています。彼は新しい血統を積極的に導入するタイプで、“若い種牛でも試してみよう”と攻めるんです。当たり外れはありますが、挑戦することで他にない成果が出ることもあります。例えば最近の中津秀や金華光も、うちではいち早く取り入れました。情報の早さと実行力が本当にすごくて、自分一人ではできない部分を支えてくれる心強い存在です。」 記者「最後に、浅野さんの座右の銘を教えてください。」 浅野さん「座右の銘は『一生懸命』です。どんなことでも中途半端だと結果が出ませんし、むしろ怪我や失敗につながると身をもって感じてきました。牛飼いも趣味のイカ釣りも同じで、全力で取り組むからこそ楽しく、成果も出ると思うんです。私はイカ釣りが趣味なのですが、イカ釣りは夜中に陸から狙うんですが、酒を飲まずに集中できるので、健康にも良い。遊びも仕事も全力でやるからこそ人生が充実する、それが『一生懸命』の意味だと自分は思っています。」 ビオスリー
子牛の健康管理に欠かせない生菌剤「ビオスリー」は、浅野さんが実際に効果を実感しているアイテムです。母牛と離れた直後に起こりやすい下痢の症状を軽減し、腸内環境を整えることで、子牛の元気な成長をサポートします。多くの添加剤を試した中でも、獣医のすすめで使い始めたこの製品が最も信頼できたとのこと。現場で本当に役立つ、頼れる健康管理アイテムです。
Writer_T.Shimomuro
源牧場 源美勇司
鹿児島県 大島郡(’伊仙町) 親牛:86頭、子牛:50頭 取材日:2025年8月19日
手綱は己の手の中に
記者「源さんの牧場では、どのようなこだわりを持って飼育されていますか?」
源さん「まず大前提として、自家製の飼料を100%使用しているところが一番のこだわりですね。購入飼料は一切使わず、自分たちで育てた草を与えることで、経費の大幅な削減を図っています。それに加えて、輸入飼料など外的な不安定要素を排除することができます。戦争や円安などで価格が大きく変動するリスクがありますから、自分たちでコントロールできる部分を増やすのが経営の安定にもつながると思っています。」 記者「徳之島では、飼料をすべて自給されている方は少ないのですか?」 源さん「そうですね、小規模で飼っている方々は自給しているケースも多いんですが、うちのように90頭近くの規模で100%自家飼料というのは、ほとんど聞かないです。規模が大きくなるとどうしても乾燥飼料や輸入飼料に頼らざるを得ない状況があるんですが、うちは自給体制にこだわって、ほぼ外部に依存せずやれているのが強みです。」 記者「それ以外にも、飼育で意識している点はありますか?」 源さん「はい。親牛も子牛も自家製飼料で飼育しているのに加えて、『青刈り』と呼ばれる若い草を毎日刈って与えるようにしています。青刈りには繁殖に有用なビタミンやタンパク質が豊富に含まれていて、実際に受精卵の着床率や繁殖成績の向上にもつながっていると実感しています。添加剤などを別途買う必要がなくなるので、その分経費の削減にもなっているんですよ。」 記者「青刈りにはメリットが多いようですが、反対にデメリットはありますか?」 源さん「デメリットとしては、やはり畑の利用効率が下がることですね。ロールベールのように一気に収穫して保存するわけではないので、1枚の畑を10日くらいかけて少しずつ刈り取る必要があります。その分、草地の回転率が落ちてしまうのは事実です。また、毎日刈る手間や、専用の機械が必要な点もネックです。しかもその機械は今もう販売されていないので、壊れたら部品の取り寄せも難しくなってきていて、今後の更新には正直不安もあります。」 “良い”では終わらせない、“選ばれる”牛づくり
記者「源さんの牛の状態に点数をつけるとしたら、何点くらいになりますか?」
源さん「自分の牛に点数をつけるのは正直難しいんですが、親牛の健康状態、繁殖成績、それに子牛の増体や市場での価格まで総合的に見ると…今の時点で90点くらいはつけてもいいのかなと思っています。まだまだ理想には届いていませんが、自分なりにしっかり手をかけてきた結果として、そのぐらいの評価はしてあげたいですね。」 記者「その残りの10点を埋めて100点に近づけるためには、どんな取り組みが必要だと思いますか?」 源さん「やはり血統の改良が大きなポイントになると思います。もちろん良い血統の牛もいますが、全部がそうではないので、全体のレベルを底上げするにはもう少し努力が必要ですね。購買者に評価されやすい血統構成を意識して、より高い価格をつけてもらえるような牛づくりを目指しています。」 記者「血統の改良は具体的にどのように進めているのですか?」 源さん「いい血統の母牛から生まれた子を保留し、そこにさらに良い種をつけるようにしています。それに加えて、受精卵移植も活用しています。資格は大学時代に取得しているんですが、今は繁殖のプロにすべて任せています。自分は管理や飼育に集中して、種付けはプロの手で確実にやってもらう。要望通りの血統でやってくれるので、そこは信頼して外注しています。」 記者「おすすめのアイテムや道具があれば教えてください。」 源さん「子牛の飼育で特に気に入って使っているのが、“トランスバーラー”という草ですね。繊維がとても柔らかくて細く、子牛でも無理なく食べられるのが特長です。嗜好性も高く、生後2週間くらいから与えても食べる動きを見せてくれます。最初は食べる真似でも、3ヶ月くらいにはしっかり体の基礎となる腹づくりができて、お腹がしっかり張って幅も出てくる。生後3ヶ月までに体の土台をつくるのが重要なので、そこに最適な草だと思っています。オーツヘイのように繊維が強すぎて消化不良を起こすリスクも少なく、非常に扱いやすい飼料ですね。」 記者「生後2週間というと、まだミルク中心の時期ですが、それでも食べるんですか?」 源さん「そうなんです。スターターや水と一緒に、トランスバーラーもバケツにセットしておくと、自然と興味を持って口をつけますね。親についている時なんかは、生後3日くらいでも親牛の食べている草を横から引っ張って真似して食べようとする。牛の本能なんですよ。それを無理に制限するのではなく、「欲しがるなら与えてみよう」という姿勢で実践しています。ただし、繊維の強さや消化性はちゃんと考慮します。無理なく食べられて、健康にもつながる草であることが大前提ですね。」 記者「トランスバーラーは入手は簡単なんですか?」 源さん「実はそれが問題でして…。トランスバーラーは沖縄や離島地域でしかほとんど流通していません。苗を分けてもらって植えれば育ちますが、気温の影響を受けやすく、0℃付近の寒冷地では冬越しが難しい。毎年苗を挿し直さないといけないし、種も発芽しにくい特性があるので、全国的に普及しにくいんですよね。九州でも南部、鹿児島の指宿あたりがギリギリの北限かと思います。本州ではほぼ厳しいんじゃないでしょうか。」 記者「なるほど。使い勝手は良いけれど、地域限定の草なんですね。」 源さん「はい。だから、他の地域の方が使いたい場合は、離島の農家さんに頼んで苗を分けてもらうとか、そういった工夫が必要です。でも、そこまでしてでも使う価値のある草だと個人的には思っています。自分は以前ローズグラス系牧草“カタンボラ”という草も使ってましたが、トランスバーラーの方が繊維が柔らかく、子牛の腹づくりにはより適している印象ですね。」 失敗の中にしか正解はない
記者「源さんの座右の銘について教えてください。」
源さん「『失敗は成功のもと』、これに尽きますね。特に牛に関しては、他の人の成功例や失敗談を聞いても、それが自分の牧場に当てはまるとは限らない。牛の体質も環境も飼い方も全部違うんで、自分の牧場には自分の正解があると思ってます。だからこそ、自分で経験して、失敗して、そこから学びを得ていく。その繰り返しの中で、ようやく“自分なりの正解”が見えてくるんじゃないかと思っています。」 記者「その考え方に至った、印象的な失敗経験などありますか?」 源さん「やっぱりお産ですね。逆子や子宮捻転など、判断が遅れたせいで救えなかった命があって…あの経験から、今は兆候があれば必ず早めに手を入れて確認するようにしています。ただ、それだけじゃなくて、若い牛の育成でも悩んだ時期がありました。生後3カ月までの食い込みが将来の前駆の発育に直結すると思っているんですが、以前、多頭農家さんの真似をして、購入粗飼料のオーツヘイをローズグラスと同じ感覚で与えてしまって…。繊維が強すぎたのか、下痢になってしまって、警戒して思うように食べられない状態になってしまったんです。気づいた時にはもう発育に差が出ていて…あの時は本当に反省しましたね。結局、農場ごとに合うやり方があって、自分の牛を自分の目で見ることの大切さを痛感しました。」 記者「今から畜産を始める人たちが、同じような失敗をしないために心がけるべきことは何だと思いますか?」 源さん「まずは“自分の手に負える範囲”から始めることですね。5~10頭程度で、草刈りもビーバーと軽トラで回せるくらいの規模が理想だと思います。その中で繁殖や育成の技術をしっかり身につけて、安定して平均以上の子牛を出せるようになってから、初めて規模を広げる。最初から牛舎にお金をかけすぎて、借金だけ残るような経営は避けてほしいですね。」 記者「なるほど。利益を安定して出すには、どんなスタイルの経営が理想だと考えていますか?」 源さん「自分の理想は、頭数を増やす“数勝負”じゃなくて、50頭くらいでも、100頭規模の農家と同じかそれ以上の利益が出せる経営です。その方が無駄な設備も雇用も必要ないし、自分の目の届く範囲で丁寧に管理ができる。利益率を上げて、自分のペースで続けていける、そんな牧場経営が一番強いと思っています。」 トランスバーラー
南の島々で育つ希少な牧草「トランスバーラー」は、繊維が細くて柔らかく、子牛でも無理なく食べられるのが特長です。嗜好性が高く、生後2週間ほどから給餌を始めると、自然と興味を持って口をつけ、3ヶ月頃にはしっかりとした体の基礎となる腹づくりに繋がります。オーツヘイよりも消化性が良く、健康的な発育を支える理想的な草として、源さんが重宝しているアイテムです。寒冷地での栽培が難しく、流通も限られるものの、それでも使いたくなる価値ある飼料です。
Writer_T.Shimomuro
株式会社永吉ファーム 永吉夢輝
鹿児島県 大島郡(’徳之島町) 親牛:741頭、子牛:464頭 取材日:2025年8月19日
止めるな、走り続けろ。
記者「永吉ファームのこだわりについて教えてください。」
永吉さん「私たちが特に力を入れているのは“省力化”です。人の手だけでは到底回らない頭数を飼育しているので、機械化は欠かせません。自社で粗飼料を生産するための農業機械や、牛の給餌を自動で行う自動給餌機、子牛用の保育ロボットなど、導入できるものは積極的に取り入れています。牛の健康管理も機械で効率的に行い、作業負担を減らすことで、より良い飼育環境を整えるように努めています。」 記者「省力化で従業員の負担を減らしているとのことですが、現在どのくらいの人員で運営されているんでしょうか?」 永吉さん「現在、役員が5名、社員が9名、パートが4名の合計18名で運営しています。牛の頭数は、生産牛が741頭、子牛が464頭の合計約1,200頭を管理していて、1人あたり約70頭前後を見る計算です。この規模になると、やはり人の力だけでは難しく、機械化とチームワークが本当に重要になってきます。」 記者「導入する機械はどのように情報収集し、選定しているんですか?」 永吉さん「主に付き合いのある業者さんから情報を得ています。2~3社から話を聞いて、良さそうだと思ったものはまず導入してみるスタイルです。社長がYouTubeなどでも情報を収集していて、気になったらすぐ試してみるんです。やってから考える、試してから改良するという姿勢が基本で、結果的にそれが一番効率的だと感じています。」 記者「牛舎内で多様な人材が働いているのも印象的でした。その狙いはどこにあるのでしょうか?」 永吉さん「とにかく“待つ時間”がもったいないんです。例えば、獣医や電気屋さんを外部に頼むと時間がかかる。そのタイムラグを減らすために、自分たちでできることは自分たちでやる体制にしています。今は電気の簡単な修理ができる従業員が3人いますし、受精師の資格を持つ従業員もいます。なんでも自社内で完結できるようにしておくことで、トラブル時の対応力が格段に上がります。」 記者「飼料についてですが、出荷前の牛がとても大きく育っていて驚きました。飼料に対して何か特別なこだわりはあるのでしょうか?」 永吉さん「実は“こだわらないこと”がこだわりなんです。複数の業者さんと取引があるので、その年の価格や提案内容によって使う飼料はどんどん変えています。自分が戻ってきて3年経ちますが、その間でも大きく内容は変わっています。固定するより、臨機応変に対応していく方が、牛にも経営にもいいと思っています。」 記者「昨今の物価高や飼料代の高騰の中で、どうやってコスト管理しながら経営を拡大されているのでしょうか?」 永吉さん「とにかく“止めないこと”ですね。投資を止めない、お金を回し続けることが大切です。借入制度なども上手に活用しながら、数字をしっかり見てリスクとリターンを見極めています。相場を見て早出しすることもあれば、市場の動きを予測して繁殖方針を変えることもあります。全部“読み”なんですよ。でも、その読みを支えるのは、日々の情報収集と、チャレンジを止めない姿勢だと思っています。」 数をこなせば、質になる。
記者「永吉さんの牛の状態に点数をつけるとしたら、どのくらいだと思われますか?」
永吉さん「今の状態なら“120点”です。もちろん満点超えてますよ。でも、それは僕ひとりの力じゃなくて、従業員全員が日々本気で取り組んでくれてるから出せる数字です。飼料管理、環境整備に至るまで、みんなが手を抜かずにやってくれてるおかげですね。やれることはやってますし、今の時点でのベストを尽くしているっていう実感があるので、自信を持ってこの点数をつけられます。」 記者「すでに120点の状態とのことですが、これからさらに目指していく先もあると思います。現状の課題や今後の目標があれば教えてください。」 永吉さん「やっぱり“暑熱対策”が一番の課題です。徳之島って湿気がすごくて、風通しも地形次第で全然違うんですよ。最近は換気扇の取り替えなんかもやってますけど、やっぱりまだまだ快適な環境とは言い切れないですね。自分たちが働いていて“ちょっとキツいな”って感じる環境は、牛にとっても良くないはず。だから、まずは人が快適に働ける環境づくりを進めて、それが牛の快適さに繋がるようにって考えています。」 記者「自然環境や台風の被害も多い地域かと思いますが、そのあたりの対策はどのようにされていますか?」 永吉さん「台風は正直、防げないんですよ。だから“飛ぶ前提”で考えてます。屋根が飛んでもすぐに復旧できるような構造にして、柱がやられたら時間かかるから、そうならない設計にしています。被害ゼロは無理でも、最小限に抑えることはできる。そういう視点で、今の牛舎づくりも工夫しています。幸い、大工さんも従業員にいるので、復旧も自社内で完結できる体制を整えてます。」 記者「おすすめのアイテムを教えてください。」 永吉さん「やっぱり“自動給餌機”ですね。導入したエリアではレバー1本で全頭に飼料が配られるので、作業の効率がまるで違います。昔は『1頭ずつ見ながら手でやる方が安心』という気持ちもありましたけど、今は“数をこなすことで質も上がる”という考えに変わりました。従業員のスキルも頭数が増える中で自然と鍛えられていくんですよ。やってみて初めてわかることが本当に多いです。」 想像すれば、道は拓ける
記者「永吉さんが師匠、もしくは目標にしている人物はいますか?」
永吉さん「中学校の時に出会った、水迫ファームの水迫栄治さんという方が、自分にとっての原点です。『想像してできないことはない』という言葉をかけてくれたのが強く印象に残っていて、今でもその言葉を胸に動いています。かっこよくて、人としても尊敬できる存在で、自分も“この人みたいになりたい”と思ったのが、この仕事に進んだ理由の一つです。」 記者「その言葉を受けて、実際に実現したと感じている経験などはありますか?」 永吉さん「例えば、徳之島の離島で生まれ育ちましたが、『獣医系の大学に行こう』と本気で考えた時、学力は正直自信なかったです。でもAO入試の制度など、自分に合った道を探して入学できたんですよね。結局、思い描くことで道が見えてくるし、そのために何をすればいいかを自然と考えるようになる。あの言葉がなければ、そもそも“想像”することすらしてなかったと思います。」 記者「最後に座右の銘を教えてください。」 永吉さん「座右の銘は『三頭寄れば百頭力』です。普通は“三人寄れば文殊の知恵”ですが、うちの場合は三頭(牛)っていうのがしっくりきていて(笑)。人が力を合わせれば、やれることは無限にあると思ってます。自分ひとりでは限界があるけど、仲間とやればとんでもないことができる。だから事業ももっと大きくしていきたいし、会社としても成長させたいと考えています。」 記者「今後の事業拡大の目標は、どのくらいの規模を見据えていらっしゃいますか?」 永吉さん「今の約1,200頭を倍の2,500頭規模まで持っていきたいですね。すでに今のやり方で結果が出ているので、それをベースに広げていけると思っています。もちろん規模が大きくなれば、経営の仕方も変わるでしょうし、従業員との関わり方も考えていかないといけない。最終的には、自分の理念をどこまで広げていけるかがカギになると思っています。」 自動給餌機
自動給餌機はレバー一本で全頭に均一に飼料を配れるため、作業時間を大幅に短縮できる優れたアイテムです。従来の手作業と比べて労力が減り、忙しい現場でも安定した給餌が可能になります。従業員の負担軽減にもつながり、大規模な飼養にも対応できる現代の牧場には欠かせない機械です。
Writer_T.Shimomuro
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概要和牛農家に3プライドを取材しました。 ■取材日時■
11月 2025
■養豚農家一覧■
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